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東京地方裁判所八王子支部 昭和31年(ワ)89号 判決

原告 土屋商事株式会社

被告 大木鉄二 外一名

主文

原告に対し、被告大木は金一五万円及びこれに対する昭和三一年四月一二日以降、被告関矢は金二〇万円及びこれに対する同年同月一一日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告において被告大木のため金五万円、被告関矢のため金七万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べ、証拠として甲第一ないし第三号証を提出した。

(請求原因)

一、訴外稲川東一郎は昭和二六年二月一一日原告に対し、金額五万円、満期同年五月二五日、支払地、振出地共桐生市、支払場所桐生市本町六丁目三九四番地振出人方なる約束手形一通を、被告大木は同年二月一一日原告に対し、金額一五万円、満期同年五月二六日、支払地八王子市、振出地桐生市、支払場所八王子市南新町二一番地なる約束手形一通をそれぞれ振り出し、被告関矢は右振出日に原告に対し右各手形金債務につき連帯保証をした。

二、原告は右各手形を満期に支払場所に呈示してその支払を求めたが拒絶され、次いでその後三年の経過により各振出人に対する原告の約束手形上の請求権は時効によつて消滅し、各振出人は手形金額相当の利益を得た。

三、よつて被告大木に対しては利得償還義務の履行、被告関矢に対しては各利得償還義務に対する連帯保証債務の履行、並びに本件訴状の各送達せられた日の翌日以降右各履行ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告大木は公示送達による呼出を受け、被告関矢は公示送達によらないで呼出を受けたが、いずれも昭和三三年三月七日午後一時の本件最初になすべき口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

当裁判所が真正に成立したものと認める甲第二号証と弁論の全趣旨によれば、原告の被告大木に対する請求原因事実はこれを肯認できるのであつて、右事実によれば原告の同被告に対する請求は正当として認容すべきである。

次に被告関矢は原告の同被告に対する主張を明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべきである。ただ約束手形金の保証がその時効消滅の場合利得償還請求権に及ぶかについては問題がないわけではなく、利得償還請求権は手形上の権利でなく、手形法の特別規定により認められた特殊の請求権であり、手形債権とは別個のものであるという理論を貰くときは、手形上の権利のための担保は当然には利得償還請求権の上に移転しないとするのが正論の如くでもある。しかし、実質的に考えると、手形上の権利が消滅する以前には、手形の所持人はすべての債務者に対し手形によつて当然に手形金額(あるいは償還金額)を請求できたのが、利得償還の場合には、利得を得た債務者に対してのみそのことを証明して請求し得るにすぎなくなるだけのことであつて、その意味では利得償還請求権は手形上の権利が変形したものと見ることができるのであり、少くとも担保の関係においては、手形上の権利の変形と見て、手形上の権利についての担保は利得償還請求権に移転すると解するのが正当であると考える。(場合は異るが、大審院昭和六年一二月一日の判決は、手形債権が他の債権の担保のため裏書譲渡せられた場合について、利得償還請求権と手形債権とは別個の債権ではあるが、前者は後者の代償物たるものであるから、手形債権が担保の目的によつて制限を受けるものである以上、利得償還請求権も同様に担保の目的によつて制限を受ける旨を判示している。)しからば原告の被告関矢に対する請求もまた正当として認容すべきである。

よつて民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、第一九六条を適用して主文の如く判決する。

(裁判官 古原勇雄)

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